長らく細々と描き続けている、ロックマンゼロの二次創作「RZMM」。
ここからが最終章となります。
総集編2冊分で「ロックマンゼロ3」までが終わり、時系列は「ロックマンゼロ4」の裏へ。
間もなく最終ステージ。最後の展開、最後の台詞はずっと前から決めています。
そこに至るまで、もう少しだけお付き合いください。
その上で一つ、今更ながら注意点が。
四天王がメインとなっていることもあり、妄想展開にオリジナル設定を積み重ねているので、それを楽しめる方のみお読みください。
1
コツ、コツ、と暗闇の中に足音が響く。
それは、固い床材と靴底が、互いの存在を確かめ合う音だ。
西暦22XX年標準の生体建材ではない。数十年、いや数百年も前の建物を、現在も使用しているということだ。この時代、ある程度の時間をかければ、構造も見た目も維持したまま、材質だけの置き換えすら可能だというのに。
石造りの塔の中、螺旋状の階段を二つの影が下っていく。不安定な灯りに照らされた影は、定まること無く揺れ動いている。
影のひとつは眼鏡をかけた白衣の男。もうひとつは、奇妙な肩当てとマントをまとった少年だ。人間離れした整った容貌が目を引く。
「面倒を持ち込むことになってしまいました。申し開きのしようもない」
マントの少年の言葉に、白衣の男は笑みを浮かべたまま応える。
「君が、そんなことを言う必要はないよ」
「しかし。我々の存在が知られた以上、ここにはバイルの手の者が押し寄せてきます。おそらくこの直轄域は、攻撃の余波だけで焦土となるでしょう」
「自由な研究環境に、自然の中での生活の保障。末端とはいえ、ANGELへの接続も許可してもらっていた。僕たちには過ぎた待遇だったんだよ。斯様な事態となってしまえば、僕たちはここを去るだけだ。生きていくことは、どこでだってできる」
浮かべる表情は諦観ではない。居所を失うと言われているのに、恐怖も、執着も感じられない。
「あなた方の功績を考えれば、それでも足りない程でしたよ。何であれネオ・アルカディア最高のものを、望まれれば提供できたというのに。当代最高の頭脳に協力してもらえなかったのは、我々にとって大きな損失だったと確信していますよ。ドクター・コサック」
2
「アリョーシャでいいよ。ハルピュイア」
白衣の男、いやアレクセイが歩みを止め、振り返る。
「博士号なんか、手に入る時代ではないしね。厳密にはもう“コサック”姓ですらないわけだし。カリンカ・コサックから数えれば、既に八世代。世界を代表していたのは、遠い過去だよ」
「ご冗談を。現在にあってもなお、貴方達の創造はこの世界の礎を支えています。アレクセイ・イワノヴィッチ・ホパーク」
「確かに立場は君と同じ、二百年前に世界を変えた科学者の子孫。身体の組成は違うけれど、ね。だがネオ・アルカディアを支えてきたのは君たちだ。僕たちがいなくても、ここまでの歴史は変わらなかっただろう」
あくまでも裏方でしかない、と、自らの影響の範囲を限定的に語ったのは、開発した技術を提供しただけで、その活用方法については政府に委ねたという自覚故か。
それとも、“これから”を見据えてのことだろうか。
「トーマスは新たな生命体を生み出すことに成功し、アルバートは自らの肉体を機械化してまで研究を続けた。その結果として、オリジナル・エックスとオメガ・ゼロという消せない爪痕がこの世界に遺った。数多のレプリロイド達と英雄ゼロは……、面白いことになったね」
「面白い、ですか」
「そう」
アレクセイは天を見上げる。その先には――翼の生えたヘッドギア、としか形容できないものが羽ばたいている。しかもその鳥は、まるで髑髏を模ったような奇妙な形状をしていた。あるいは、白骨で組み上げられた白鳥。
「世界を規定するのは大きな力だけれど、その中で生きるのは、歴史を作るのは一人ひとりの生命体でしかありえない。誰にも予測することなどできない、小さな決断の繰り返しが積み重なってこの世界を形作っている。さて、この時代の大科学者バイルは、何を遺すのだろうね」
「何一つ、残しはしません」
賢将が眉をよせ、険しい表情をみせる。
「それは、バイルがのこさないのかな? それとも君たちが? まあ、どちらでもかまわない。そして一方で、わが曾祖父ミハエルは子を残した。生物種としては、一番まっとうな選択をしてくれて、感謝しているよ。多少の力も、受け取りはしたけどね」
降下してきたヘッドギアがアレクセイに装着される。白鳥の胴が後頭部に固定されて、頭と嘴がマスクとなる。首と翼が隙間を埋めるように頭頂と側頭部を包むと、白衣の隙間から光が見えた。
アレクセイが白衣の下をのぞかせる。そこに在るのは、一見するとヒトの骨格のような半有機装甲体。
「フォース・ギアtypeスカル。古のロボットのデータを反映して、装着者に力を与える、ドクロボットの変化・進化形だ。サポートメカならコサック家にお任せ、って言うだろ?」
ハルピュアイアには、どのように応えて良いのか判らなかった。
「だから、安心してくれていい。この城のスタッフは全員、これの保持者だ。君たちの手は、煩わせない」
「それは……用意周到で、助かります。さすがに我々でも、市民を護りながらのミュートス戦は荷が重い」
その時、ハルピュイアの影が動き出して、言の葉を綴りだす。
「ハルピュイア。潜砂艦の音紋を感知した。来るぞ」
ファントムからの通信が、ハルピュイアの感覚器に直接響く。
「速いな。有能な元部下を持って、幸せだと言うべきかな」
「それじゃあ、僕たちは去ろう。あとは好きにしてくれて構わない。設備じゃなく、思想が残れば問題はない」
研究室の扉が開く。それは、この城の学者達の脱出のためであり、敵対者を導き入れるためでもある。
不快な振動、地鳴りが近づいてくる。そして明確に、地殻を割る音だと判る。瞬間、音が空間に解き放たれ、振動が前進を止めた。潜砂艦が目的地に到達し即座に浮上、戦闘態勢に移行するパターンの挙動だ。
続く戦闘行動は、演習通りならば威力偵察。敵対勢力の戦力を分析した後、それを十分に圧倒できる戦力を一気に叩きつける。それが、人類を守護するために敗北が許されないネオ・アルカディアの必勝の構えだ。そしてネオ・アルカディア最後の砦たる四天王が、揃って軍勢の先頭に立つことはありえない。
ならば、四天王しか姿を現すことができないこの状況には、万策尽きた、と言うべきだろうか。いや、方策は尽きてはいない。敵は全て斃せば良いのだと、四人の王は本気で考えているのだ。
階段を登りながら、賢将は闘将の、そして妖将の気配を感じ取る。
「行こう、配下の過ちを正すことも将の責務。目を覚ましてから眠ってもらうとしよう」
四天王の決意が揺るぐことはない。
人類を護る。同じ目的を持った二つの勢力の衝突が、始まる。