白銀の宿縁 後編(3)

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「アイスバースト!」

 バスターから氷の粒を撃ちだして、湖上に足場を生成する。水面に飛びだした氷塊だけではない。レヴィアタンの重量なら、氷塊周辺の氷面も移動手段として活用することができる。

 ジャベリンの先端に形成されたフロストシールドで衝撃派を防ぎ接近、マネキャンスに押し付けたシールドをそのままフロストタワーへと移行。動きを封じてから、フリージングドラゴンを放ち、氷の結界が生み出される。キャンサーに、逃れる術などなかった。氷龍に反射し続けて加速度的に弾数を増やすショットガンアイスに撃ち抜かれて、全身の水密装甲が歪んでいく。

「オレは、ネオ・アルカディアの存続のために。それこそが、 世界秩序を、護る」

「お断りよ。アナタには悪いけど」

 マネキャンスの考え、それ自体はひとつの見方として正しい。しかしレヴィアタンのそれとは、どうしようもなく相容れないのだ。

 何を優先するのか、結果として何を目指すのか。現状維持ではない目的を明確にしてしまえば、既存の秩序の構成員もそのままではいられない。争いは時に、命をかけたものとなる。バイルの甘言に乗ったマネキャンスへの報い、そしてバイルの存在を隠してきた四天王の罪でもある。

 

 マネキャンスの身体が崩れ落ち、ハンタータイプの機密保持機構が起動する。固い装甲に護られていた内部が炎に焼かれていく。赤熱する装甲の上で氷が溶け、泡が弾ける。

 ミュートスレプリロイド同士の闘いの、これが結末だ。同じネオ・アルカディアの闘士として、道を違えてしまった以上、並び立つことはできない。

 ただそんな諍いは、命令に従うだけのメカニロイドには意味を持たない。指揮官の絶命により、アッカド・ホッタイドへの命令解除は永遠になされることはなくない。

「ごめんなさい。あなたを解放してあげることは、今のわたしにはできないの」

 レヴィアタンが、氷漬けにされて身動きを取れないアッカド・ホッタイドに近づいていく。その螺旋を描く前部ユニットから身を乗り出すように、左右に分かれたドリルの先端を盾として両腕に接続された制御ユニットが露出していた。

 一体のパンテオンだ。

 搭乗型のヒッタイド・ホッタイドと異なり、単独での破壊工作に特化されたアッカド・ホッタイドの制御は、ユニットとして埋め込まれたパンテオンが担っている。下肢は掘削機と一体化し、声を出すことすら禁じられ、ただうめき声を上げるのみだ。

 レヴィアタンは、アッカド・ホッタイドの制御ユニットに正対して、思考を巡らせる。

「全体を凍結させて、体感時間を止める。そしてこの巨体でもって、地底湖に穿たれた流出孔を塞ぐ」

 しかし、レプリロイドを凍結させる程の冷気を産みだし続けるのは、容易ではない。地底湖からの水の流出を防ぐには、フロストジャベリンを放棄するしかない。と思えた。民のために十の武具を失うことを決意しなければならない。

 だが。

「僕がやろう」

 バッファリオは静かに、しかしレヴィアタンには有無を言わせない重みをこめて、そう言った。