今後2年間も不健全図書は非公開で決まることになりました

2022年11月14日に開催された第741回東京都青少年健全育成審議会の議事録が公開されました。

2年に一回、審議会運営について話し合う、大変傍聴しがいのある回です。

 

他の回の、傍聴しがいの無さがおかしいんですけどね。

 

その審議会を傍聴した感想を、議事録で確認しながら呟いてみたいと思います。 

 

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私、青少年健全育成審議会委員を仰せつかりまして5年目に入ります。この間、特に 、コロナ禍の状況の中で審議をどうするかとか、さまざまな問題がありました。これからもさまざまな、また問題が持ち上がってくるかと思います。表現、言論の自由表現の自由を最大限尊重しつつ子どもたちを守っていく、そういうことを基本に務めてまいりたいと思います 。

会長代理は再任ですが、今回は「言論の自由表現の自由を最大限尊重」するという発言をしたのが印象的。

表現の自由の観点で審議会が注目されていることが、委員にも意識されていると実感します。

 

ただこの発言の後にまた、一冊の本を流通から排除したんですけどね。

表現の自由の尊重とは一体……。

 

 

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①不健全図書類としての指定が決定する前の段階でその図書類の名前が公開されること等により、出版社に不利益をもたらすおそれ等がある、

②出版社等の利害関係者や都民等から直接委員に意見等が寄せられる可能性があるなど自由な意見陳述が困難になるおそれがある、

③非公開にした場合でも、会議の結果はホームページや都民情報ルームにおいて公開され、議論の内容自体に透明性が確保されている、

審議会の審議部分を非公開にした理由が整理されています。

はたして、これに納得できるかどうか。

私は納得できないので、できる限り傍聴を続けています。

 

「議論の内容自体に透明性が確保されている」といっても、議事録の公開は審議から1ヶ月以上経ってから。

その間に、該当の図書への対応(区分陳列や通販からの削除)は進んで行くのですから、指定される側にしても、納得できるものではないでしょう。

 

 

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この青少年健全育成審議会ですが、審議の部分は非公開で行われているということでありますが、私はこれまで1年近くこの審議会、関わってまいりまして、公開してもいいのではないかと考えている

さて、その後藤井あきら委員(都議、町田市、都ファ)から、審議の公開について提案がされました。

それには田の上いくこ委員(都議、江戸川区、ミライ)も同意しつつ、「出版社の不利益」について質問。

 

 

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審議を公開することによって発生する、「出版社の不利益」とは何なのか?

書店等におきましても、プレス発表、告示の前からその販売が行われなくなってしまう、そういう意味で不利益をもたらすおそれがあると。また、その図書類の作家の方に対しても、告示の前に、そういう名誉等に不利益をもたらすおそれがある

なぜずっとこのような審議形式で来たのかということですが、それは審議内容というか、会議の情報がいとも簡単に漏れてしまうからなんですよ。出版社が東京に集中し ており、それだけに注目されていて、このネット社会になり、SNS とかで情報が漏れて流されるんです。それは我々が想像する以上に大きいのです。それで、その漏れてしまった情報は、ネット通販で販売しているところに影響を与え、販売停止や制限がかかるケースが出ます。ですから、この審議会の情報管理は、どうしても慎重にならざるをえない

不健全図書に指定された場合、月曜日の審議会から数日後に公表されます。

その前に図書名が知られてしまうと、その時点から販売が行われ無くなってしまうという不利益。作家の名誉等への不利益。

そういったものだそうです。

 

「不健全図書に指定されるのは不名誉なこと」という認識なんですね。

 

そして数日後には明らかになるのに、そもそもこの審議会で指定するから名誉が傷づけられるのに。

気を使うところがズレているように思います。

 

また、不健全図書が本当に「青少年の健全な成長を阻害する」図書であるならば、即時の販売停止はむしろ、望ましいことではないでしょうか。

出版社の利益に気を遣っている場合ではありませんよね。

 

 

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参加している各団体の個人名も公開したらどうかと言われましたが、これが今のようにアルファベットで出されていても団体の誰がしゃべったかっていうことがネット上 に漏れまして、5年くらい前でしょうか、ある委員の方が、厳しいノイローゼの状態 になり、もう降りたいという相談を受けたことがあるんです

ということが、「自由な意見陳述が困難になる」実例として挙げられています。

個人への攻撃・誹謗中傷には、都・事務局にも毅然と対応していただきたいところです。

しかし、今の都の対応の方向性はおかしい。

 

例えば、事務局が松田りゅうすけ前委員(都議、大田区、維新)に発言の自粛を求めることも、「自由な意見陳述」をさせないことに他なりません。

 

確かに、誰が何を話したかわからなければ、個人攻撃は起こり得ません。

ですが、一つの作品、一人の作家の運命を変える重大な決定を下す東京都の審議会がそれで、逃げの一手で良いのでしょうか。

 

 

この審議会が持つ影響力といいますか、全国への波及を考えますと今までどおりの体 制が良いかと思います。

これも注目すべき発言です。

東京都の条例での指定が全国に影響するという認識が、審議会内に確かにあるということですから。

 

 

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仮に、公開した上で指定されなかった場合も、指定候補であることが明らかになりまして、作者の名誉や出版社の営業上の利益が侵害されるという、そういうおそれもあるのではないかと事務局では考えてございます。

ここは笑いどころか。

候補になるだけでも不名誉なようです。

 

指定候補として購入された図書名は、情報開示請求をしても黒塗りなので、都の姿勢は一貫してはいますね。

 

 

もし、議員の氏名だけ公開されますと、その他の委員の名前も範囲が狭くなりまして、特定さ れ や す く なるのではないかという意見が過去にございました。また、各団体を代表してる委員の方々の見解も十分踏まえて決定すべきという意見もございました。 また、最後になりますが、都議会議員の方々につきましては、学識経験者委員の一部でありまして、ここだけ切り分けて独立して考えていくのはまた別の議論なのではないか

都議会議員だけは氏名を公開しては、という提案への都からの反論です。

 

実際に都議会議員4名は、学識経験者の枠で委員となっています。

「議員として参加しているわけではないから、他の委員と異なる取り扱いはできない」という理屈ですね。

現制度の枠組みで言うならば、一理なくはありません。

 

しかし一方で、「都議会議員は青少年健全育成についての学識経験者なのか」と言う疑問が生まれます。

この枠組みを変える提案が、まず必要かもしれません。

 

 

またここでは、審議会は原則としては公開であるということが確認されました。

ちょっと確認を事務局にさせていただきたいんですが、この7番の会議の公開のところ、非公開とすることがで きるというふうになっているかと思うんですけども、「原則は」公開することであるという理解でよろしいでしょうか。

はい、原則は公開でございます。ただ、ご覧の記載にあるとおりでございます。調査及び審議に係る部分については、審議会の決定として非公開とすることができるものでございます。

議事録で「原則は」に鉤括弧をつけた職員の方は、良い仕事をしています。

 

 

そして欠席していた2名の都議の意見。

うすい浩一委員(都議、足立区、公明)。会議は公開が望ましいが、全体で決めてほしい、と当たり障りのない意見。

土屋みわ委員(都議、世田谷区、自民)。こちらも公開が望ましいとしつつ、「委員のなり手がいなくなる」という指摘がありました。

 

ノイローゼになってしまう、ということがあれば、それは一人の人間にとっての大問題です。

それでも、不健全図書を指定するという仕事が必要なことであるならば、公開の原則をひっくり返してでも、委員を守って議論することに意味はあります。

 

しかしながら、不健全図書を指定することで、青少年が健全に育成されるという効果測定はされていないわけです。

そこまでして続けるべき審議会なのか、まずは議論を尽くしてもらいたいと思います。

 

 

今、団体の皆さま方のご意向というのも諮ったところでは、非公開というお気持ちで 一致していらっしゃるということもございますので、今の委員からの課題の投げ掛けも事務局の方で受け止めて検討し、また、都議会議員の委員の方のご意見も踏まえということで、今期に関しては、前期と同じような形で進行したいと思います。よろしゅうございますでしょうか。

そして、今後2年間の非公開が決まった瞬間がここです。が、誰がどこまで賛成なのか、曖昧なまま進められてしまったことは、一都民として大変遺憾です。

 

今回の議論においては、

  • 全体の公開
  • インターネット中継
  • 図書名がわからないよう注意しての公開
  • 時差を設けての公開
  • 団体名での記載
  • 都議会議員のみ公開

といったグラデーションのある提案がなされました。

それに対して「従来通り」で決議をとっては、議論が深まりません。

 

しっかりと賛否を明らかにしていくことが、変わるにしても変えないにしても、審議の過程として必要なはずです。

 

 

・変えていくために

この審議会運営を変えるための一手として、くりした善行元委員(前都議、大田区、立憲)が、「不健全図書」の名称を変えるために陳情をしました。

「都議会で賛否を明らかにする」という目的が非常に興味深く、傍聴で感じた私の違和感と合致します。

 

今ある制度の維持をただ目指すのではなく、適宜見直して、「青少年の健全な育成」のために実効性のあるものにして欲しい。

意味のないことなら廃止してしまえば、作家も出版社も委員も心理的な負担がなくなってWin-Winです。

委員一人当たり2万円の経費も浮きます。

 

 

審議会の中から運用を変えられないのであれば、都議会で実名で、議論が進むことを期待します。

 

後押しの署名活動も同時に行われていますから、この問題に関心がある方はぜひ、リンク先を覗いてみてください。

2023年は、何かが変わる年になりますように!

www.change.org