東京都エロ本自販機探訪記(1)東京都練馬区

東京都民の一人として、可能な限り足を運んでいる青少年健全育成審議会。『東京都青少年の健全な育成に関する条例』(以下、都条例という。)に基づいて、毎月第2月曜日を原則として開催されている。

その中で毎回報告されているのが、都内の『自動自販機の届出等の施行状況』だ。ここで言う自動販売機とは、規制対象収納物(表示図書類・準ずる図書類・特定がん具類)の自動販売機(以下、図書類自販機という。)のことを指す。

2003年10月には1,116台を数えた都内の図書類自販機は、2023年9月にも4台が廃止され、わずか6箇所25台となっている。

その絶滅危惧種と言える図書類自販機が練馬区に2箇所、設置されているということで、現地を訪ねてみることにした。

 

 

1.練馬区旭丘 店舗名称不明 2024年2月4日訪問(2024年2月廃止)

 

南長崎通り沿い、練馬区と中野区と豊島区の区境にこの店舗はあった。

 

1階が店舗になっている昔ながらの店舗兼住宅の一角。店頭には飲食物の自販機が並び、店内には怪しげな、何が当たるかわからない千円自販機が2台設置されている。さらにその奥に足を踏み入れると3台の図書類自販機があるのだが、知らなければ気付くことはできないだろう。

 

図書類等自販機

図書類等自販機

硬貨を投入できる自販機もあるが、商品の価格は千円単位だ。雑誌にしてもDVD付きがほとんど。DVD単体のソフトに加え、特定がん具類も販売されている。

 

右端の1台には、『日本VB自動販売機協議会』の会員証が貼り付けられている。

現存しない団体のようだが、検索すると国税庁のサイト内に『東京都における図書類自動販売機の規制について 』(※1)という文書が見つかる。なんだこれは。

それによると2001年の都条例改正を受けて2002年5月に都と協議を行い、同年11月から年齢識別装置等の設置等の自主規制を導入した当事者団体ということになる。自主規制により1年間で9割の図書類自販機に年齢識別装置を設置したにもかかわらず、2004年には条例改正により義務付けに至ったことは、都条例が段階的に規制を強化した実例と言えるだろう。

一方で、その際に『表現の自由、出版の自由を侵害するものではないか?』という議論が行われたらしいことは、エロ表現も表現の自由であると都が認識していることの証左でもある。

 

年齢識別装置

年齢識別装置

その肝心の年齢識別装置は、床に置かれていた。他の方のブログ記事やツイートを見ると壁に設置してあったはずで、はたして今も正常に機能しているのだろうか。

 

図書類自販機の右下にはそれぞれ、都条例に基づく表示が貼り付けられている。実名が記載されているため写真は控えるが、様式例を掲載する。

管理者の住所に『東京都』がつかないのは、都外の管理者は認められないためだ。

 

 

 

2.練馬区春日町 店舗名称不明 2024年2月4日訪問

 

練馬春日町駅平和台駅の間、環八通沿いを歩くと、周囲の落ち着きに似合わないトタンの小屋が現れる。街区表示板も見当たらないが、飲料自販機には記載があった。

 

立憲民主党ポスター

立憲民主党のポスターが掲示されているのはご愛嬌。#表現の自由を守るための約束に賛同している、藤井とものり都議会議員のものもあった。

 

注意書の通り節電中で店内は暗いが、自販機と天井の蛍光灯は、入るとすぐに点灯した。

 

商品持ち帰り袋は品切れ。それほど多く売れるのか、補充が行われていないのか。

 

年齢確認装置は鏡面になっていて、どうしても対面の自販機が写り込んでしまう。

 

図書類自販機の内1台は旭丘と同型。やはりDVD付き雑誌が多い。残り2台はDVDとがん具で、商品構成は旭丘と変わらないように思える。表示されている連絡先や氏名からも、どちらの店舗も管理者は同一だ。

 

旭丘との違いとしては入口近くにアダルトグッズの自販機があるのだが、これは都条例での規制対象ではない。

 

お客様へ

新たな発見として、掲示物の一つに『三和図書販売株式会社』と、社名が書かれていた。板橋区に本社を構える企業のようだ。調べてみると、『川崎市で自販機にエロ本を入れて販売しようとした営業所長と社員が現行犯逮捕された』という衝撃的な内容のネット記事(※2)が見つかった。

本当にそんなことがあり得るのか。記事のネタ元とされる2004年9月3日の東京新聞朝刊を確認したいところだが、現時点では現物を確認できていない。読売新聞、朝日新聞毎日新聞日本経済新聞の同日の縮刷版を確認したが、上記事件の情報は掲載されていなかった。

他方、関連記事として、東京新聞で以下の2件を確認することができた。

 

有害図書自販機許さない 土地提供者 初の摘発 神奈川県警 7業者、11人を書類送検』(1997年7月23日朝刊)

有害図書を自販機収納 被告に罰金1300万円 鎌倉簡裁』(2005年1月13日朝刊)

 

概要のみ紹介すると、前者は図書類自販機を設置するため賃貸契約を結んだ用地提供者が、神奈川県青少年保護育成条例違反(有害図書等の収納禁止)幇助の疑いで書類送検されたという記事。同時に条例違反で7業者10名も送検されている。

後者は、三和図書販売の社長など3名が、同じく神奈川県条例(収納禁止)違反に問われた裁判で総額1,320万円(30万円×44件)の罰金刑を受けたという記事だ。

自動販売機への指定図書(有害図書)の収納禁止は各地の条例で規定されており、現役の条文だ。行政の姿勢によっては、現在でもこのような強圧的な運用が可能であるということを、あらためて認識しておきたい。

 

そしてこの運用姿勢の変化は、なぜ起こったのか。

事実として、2003年7月に神奈川県では、松沢成文新知事が就任。2005年にはGTA3を家庭用コンシューマーゲームとして初めて有害図書に指定した。

日本の表現規制史に残るこの事件と同じ年、同じ県での出来事だ。完全に独立した事象とは言えないだろう。

 

※1 https://www.nta.go.jp/about/council/sake/040512/pdf/01.pdf

※2 https://plaza.rakuten.co.jp/bluestone998/diary/200409030000/