都内で最多の設置数を誇るのが、八王子市の1箇所10台だ。
4.八王子市堀之内 番地不明 こっそり堂 熊沢店 2024年2月26日訪問

最寄は京王堀之内駅、旧東京都道155号沿いに位置する。車でなければ、平山城址公園駅行きのバスが便利だ。


看板は色褪せていて、知らなければ近隣農家の物置としか思えないだろう。入り口は小屋の両端、道路からは見えない場所に配置されている。

細長いプレハブ小屋に入ると、左右に自販機が並んでいる。図書類自販機が10台とアダルトグッズの自販機が3台。訪問時に照明は点いておらず、薄暗い店内は不気味だった。
硬貨を扱いたくない事情もあるのだろう。千円単位で統一された商品の中に、ただの書籍はない。DVD付きが精々だ。

年齢識別装置は中程に1台。後述する事情からか、『購入希望ボタン』なるものが設置されている。
ここで注目したいのが、業者と管理者だ。
こっそり堂の経営者ら8名が2018年6月21日に、愛知県青少年保護育成条例違反(有害図書等の収納)の疑いで愛知県警に書類送検されている。朝日新聞デジタルの記事『わいせつ無人自販機、違法経営の疑い 8人を書類送検』によれば22都県に111店舗1,357台を設置し、2016年8月までの1年間で4億4千万円を売り上げたという。

記事の末尾には『各地の自販機は現在、全て撤去されたという』という一文がある。しかし今も八王子に、こっそり堂は未だ存在している。こっそり堂と明記された掲示物もある。
ストリートビューの画像から、2018年から2020年にかけて店外の装飾が著しく現象していることは間違いない。果たして今目の前にあるこっそり堂は、以前のこっそり堂と同一の存在なのだろうか?
業者として表示されている住所は、報道されたこっそり堂の実質的経営者の居住地(山梨県富士河口湖町)とは異なっていた。そして驚くべきことに、この店舗には業者が異なる自販機が混在している。葛飾区と同一業者(氏名と所在市までが同一。町名からすると2009年以降の届出)のものが6台、その他の業者(片方は個人名に加えて『北斗舎』と記載)のものが2台ずつ。届出番号も通しにはなっていない。
連絡先の表示もまちまちだが、掲示物の一つには店名が『熊沢店』と明記されている。しかし連絡先(フリーダイヤル)は塗り潰されており、同じ自販機に別の連絡先(その自販機の業者)が貼られているため、信頼して良い情報か悩ましい。
管理者は10台とも同一人物(かつ練馬区、葛飾区とは別人)だ。
さて、上記記事中には『遠隔監視するシステムがあり、自販機ではない』という主張があり、独特の年齢識別装置とあわせて興味深い。
こっそり堂は、カメラを通じて監視センターから客の年齢を確認するというシステムを構築していたらしく、その主張の通りなら対面販売の性格を有することになる。対面販売であれば、収納の疑いは不当という理路だ。一方で『確認機能が不十分で、少年が商品を購入できた事例があった』ことが書類送検の要因であり、運用が完全でなかったことが窺える。
カメラを通した年齢確認については、判例がある。『福島県青少年健全育成条例違反被告事件』(最高裁平成21年3月9日第二小法廷判決)』(※4)がそれだ。
1 有害図書類に係る本件販売機は,監視カメラで撮影した客の画像を監視センターに送信し,監視員がモニターでこれを監視する等の機能を備えていても,「販売の業務に従事する者と客とが直接対面する方法によらずに販売を行うことができる設備を有する機器」として,福島県青少年健全育成条例16条1項にいう「自動販売機」に該当する。
2 有害図書類の自動販売機(販売の業務に従事する者と客とが直接対面する方法によらずに販売を行うことができる設備を有する機器)への収納を禁止し,その違反を処罰する福島県青少年健全育成条例21条1項,34条2項(平成19年福島県条例第16号による改正前のもの),35条の規定は,憲法21条1項,22条1項,31条に違反しない。
つまるところ、こっそり堂と同様の販売形態は『確認機能が不十分な年齢識別装置を備えた自販機』と判断されたわけだ。2024年現在もセルフレジでは酒類・タバコを購入できないことを考えれば、画像のみでは年齢確認が不十分とされること自体に違和感はない。
それではなぜ、完全な年齢確認を導入しなかったのか。
2002年にVB協会による自主規制が発足した後、急速に年齢識別装置の設置は進んだ。2003年には東京都内の図書類自販機の86%に年齢識別装置が装着された事実を踏まえれば、おそらくVB協会非会員であったこっそり堂がカメラを通した年齢確認を2018年まで続けていたことには、明確な理由があったに違いない。
運転免許証を用いる年齢識別装置を導入しない理由は明らかだ。免許証を持たない成人も購入できなくなってしまう、消費者の過剰な排除である。
タバコ業界は商機を失うリスクへの対応として、独自ICカードの発行を決断した。taspoだ。しかしタバコほどの市場規模を持たない業界が、独自のカードを発行することは困難だった。2008年にtaspoが導入された際には町のタバコ店の廃業が話題となったが、より台数が少ない図書類自販機に年齢識別装置を導入する負担がどれほどのものだったか、想像に難くない。
その他の年齢識別装置としてタバコ自販機における顔認証方式が財務省に認定されたのは、taspoと同じ2008年。マイナンバーカードの発行開始が2016年。当然、それらの年齢識別装置を図書類自販機に2000年代前半に導入できるはずもない。
タバコ自販機に先行すること6年。図書類自販機は手探りでの規制対応を強いられた。その中で運転免許証を用いない年齢確認として考えられたのが、カメラを用いた擬似対面販売だったのではないか。その際の投資額を回収しようと考えれば、導入した年齢識別装置が不完全なものであっても走り続けるしかなかったのだろう。
紆余曲折の末、2026年3月にはtaspoが廃止される。その後には運転免許証とマイナンバーカードを使用する年齢識別装置が残る。ここに至るまでに、数多くの自販機が撤去されてきた。
企業活動として、コストに見合わなければ撤退するのは当然のことだ。年齢識別装置の導入という自主規制を強制することで金銭的な負担を発生させて廃業に追い込む動きは、指定図書類・酒類・タバコとも共通している。その観点からすると、年齢識別装置を備えない酒類自販機が未だ残っていて比較的規制が緩いことにむしろ驚かされるのだが、この記事の主題とはしない。
そしてもう一つ、自販機撤去の後押しとなる外的要因がある。貨幣の刷新だ。
千円紙幣に特化した結果、偶然にも2021年の新五百円硬貨への対応を乗り切った図書類自販機だが、新紙幣が登場する2024年が最後の年になるのかも知れない。
当然のことながら、指定図書類の扱いが酒類・タバコと同等で良いかという論点は別にある。
指定図書類の自販機への収納禁止は表現の自由の侵害にあたらないとした『岐阜県青少年保護育成条例事件』(最高裁平成元年9月19日第三小法廷判決)の論理展開の問題については、前衆議院議員の山花郁夫氏も自身のnote(※5)で指摘している。
ぜひ一読いただきたい。
※3 https://megalodon.jp/2019-0111-0932-50/https://www.asahi.com:443/articles/ASL6P5F00L6POIPE01B.html
※4 https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=37401
※5 https://note.com/yamahanaikuo/n/nfe7ac0cf4779
この記事を別視点から書き直した記事を、「AFEEマガジン21号」に寄稿している。
ぜひご一読いただきたい。