白銀の宿縁 後編(1)~(2)

1

 鋼鉄の拳が、蟹型レプリロイド、クリシウス・マネキャンスに叩きつけられた。強烈な一撃の勢いで宙に舞い、空中で一回転。そのまま見事に、着地する。

「何しやがるよ、このデカブツは」

 視線を、眼球だけを回転させて乱入者に向ける。大きい。体積で十倍以上の差があるだろう大型レプリロイドに対して、一歩も引くところはない。

「そうだね、とりあえず、女の子に暴力を振るうのは悪い奴だ、と思ったんだけど。間違ってないかな?」

 とぼけたような声、しかし真剣な口調で、その場全体に問いかける。マネキャンスに、アッカド・ホッタイドに、そしてレヴィアタンに。

「間違ってるね。その女が、レプリロイドの敵だよ」

 間髪を入れず放たれたマネキャンスの応えに、そうなのか、と相槌を打ちながら、大型が位置を変える。三角形の頂点を移動するように。アッカド・ホッタイドは動かない。妖将レヴィアタンは動けない。

「史上最も強靱な生命体であるレプリロイドが、世界を管理する。その刻が間近に迫っているというのに、邪魔をしようというんだから」 

 しかしマネキャンスの言葉は、乱入者に届いていないように思われた。彼は何を知っているというのか。迷うことなく歩みを進める。 

 拘束されたままのレヴィアタンの顔をのぞき込み、その表情を、ソウルを読み取って自ら判断する。

「そうか。君はエックスの

 咄嗟には意図が汲みとれないつぶやき。

「あらためて、君に力を貸そう。現在の体制について大体のことは、妖精の記憶からわかった」

「あなたは、誰なの」

 レヴィアタンの疑問は当然。英雄エックスを知っているとなれば、尚更だ。エックスを呼び捨てで語る、このレプリロイドは一体何者なのか。

「バッファリオ。エックスの、友人だ」

 フローズン・バッファリオ・サイバー・リミテッド。それが目覚めた者の名だ。凍土の中で眠り続けていたイレギュラー戦争初期の大型レプリロイドが、サイバーエルフの力を得て蘇ったのだ。

 

2

「そうか。ならば、敵と決まった」

 情勢を即座に判断して、キャンサーが動きだした。ホッタイドの至近に場所を移し、二対二の体制を整える。

「百年以上前の水牛型が、ミュートスレプリロイドに勝てるつもりか? 舐めるな」

 キャンサーが巨大なその鋏脚から放つ衝撃波は、バッファリオの装甲に傷をつけるほどの鋭さはなかったが、巨体の歩みを押しとどめるほどの圧力と同時に、充分な連射速度を備えていた。

 アッカド・ホッタイドの重装甲は、レヴィアタンのバスターを通さないだけの堅牢さを備えている。

 だったら、とバッファリオがレヴィアタンに声をかける。

「持ち場交代だ。大型は大型を、相手にさせてもらう」

 冷気を纏ったバッファリオであれば、水流を凍らせたまま、ホッタイドを押さえつけることもできる。レヴィアタンはホッタイドの拘束のために手放していたフロストジャベリンを再び手に取り、キャンサーに相対する。冥海軍団の将として、裏切り者には処罰を与えなければならない。ネオ・アルカディアから追放された身が、冥海軍団の将としての責務を果たすのだ。

「待たせたわねマネキャンス。光る十の武具、フロストジャベリン。その身で存分に味わいなさい」