絶賛公開中の「PROJECT ITOH」第三作『虐殺器官』。
公開初日にレイトショーで観たが、非常にクオリティの高い「映画化」だった。
削ぎ落とされた要素に不満を持つ向きもあるだろうが、二時間という限られた時間にまとめるには、悪くない決断だったように思う。
さて、本稿のタイトルをクリックした諸兄に於いては、1999年に放映されて世紀末の話題を席巻した伝説のロボットアニメ『ガサラキ』を、当然ご存じのことだろう。
その『虐殺器官』と『ガサラキ』の共通性が今、Twitter上でも話題になっている。
そこで、私なりにそう感じる理由をまとめてみた。
キャラクターデザインが『ガサラキ』
「PROJECT ITOH」三部作のキャラクター原案は、言うまでもなくredjuiceだ。
しかしアニメーション用の設定画は、監督を務める村瀬修功自身が手がけている。
濃密な村瀬絵・村瀬演出で描き出される劇場版『虐殺器官』の世界は、同時に強い『ガサラキ』感を与えてくれる。
脚本・設定考証が『ガサラキ』
『虐殺器官』には設定考証として野崎透が参加している。
同じく村瀬修功がキャラクターデザインを手がけた『ガサラキ』や『アルジェントソーマ』の脚本・ノベライズを手がけた彼の、物語と設定のバランス感覚。
ドラマを動かしていく設定の力が、実に『ガサラキ』なのである。
音楽が『ガサラキ』
『ガサラキ』の音楽は蓜島邦明では? という疑問は正しい。
だが、一歩引いて池頼広の経歴を見直してほしい。
池頼広が参加した『FLAG』の前身は『ガサラキ』の外伝小説『DEAD POINT-死点-』であり、間違いなく『ガサラキ』の系譜を引き継いでいるのだ。
筋肉が『ガサラキ』
村瀬修功の描く男性キャラクター、おじさん達の非常に魅力的だ。
しかしここで触れたい“筋肉”はおじさんキャラのことではなく、両作品に共通して重要なSFガジェットとして登場する“人工筋肉”のことだ。
現実ではありえない高いエネルギー効率、扱いの難しさ、処分の易しさなどが、現実とは少しずれた世界観を支えている。
そして人工筋肉の出自自体が意味を持つのが、両作品に不思議と共通する要素でもある。
兵士の扱いが『ガサラキ』
それぞれ自衛隊と米軍を主人公の所属先とする両作品だが、生身の兵士の扱いも似た部分がある。
薬物投与によって戦闘単位としての活動を維持される兵士たち。
それはむしろ現実に即した描写であると言えるが、真正面から描いてしまう愚直さが、観た者に同じような印象を抱かせるのだろうか。
国際関係論が『ガサラキ』
アメリカをキーとして現実の国際関係を反映しようとするのも、両作品に共通するところだ。
映像作品として、企画から公開まで長い時間が必要である以上、現実からずれてしまうことも共通している。
しかし『虐殺器官』に関しては、伊藤計劃の死後企画され、マングローブの倒産により公開が延期され、トランプ大統領が就任して鎖国に向かうアメリカが現実に在る今日に公開されたことに、一周回った面白さを感じてしまう。
強烈な鎖国の行き着く先に何があるのか、それを考えながら『虐殺器官』を鑑賞するのも一興だろう。
またそこから、『ガサラキ』を通して日本の向かう方向を考えてみるのも愉快だ。
最後に
さて、ここまで読み進めてくれた君たちは『虐殺器官』が、あるいは『ガサラキ』が見たくてたまらなくなっているはずだ。
この機会にぜひ、その魅力を再確認してもらいたい。